大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)3662号 判決

被告人 永原義雄

〔抄 録〕

一、本件予防注射液の購入について、当時被告人の上司であつた同県経沢部長小船清が指示をした事情のあること及び被告人が収受した現金につき同部長にはかり、その一部を同畜産課の食糧費その他接待用に費消した事実は認められるのであるが、それが所論のごとく、右現金が単に研究費名義で届けられ、被告人はこれを上司たる同部長に報告し、その指揮により接待費に充当したのに過ぎないものであり、被告人において右金員を収受する意思がなかつたものとはとうてい肯認しがたく、所論引用の国家公務員法及び地方公務員の規定は、犯罪行為についてまで上司の命令に忠実服従を要求する趣旨ではなく、本件について上命下従の関係よりして犯意を阻却すべき理ありとはいわれないので、所論引用のいわゆる甘糟事件の判決は本件の例として適切ではない。また、たとえ、被告人が右金員を同部長の指示にしたがつて同畜産課の食糧費等に費消したとしても、右は自己の収受した賄賂の使途につき同部長に相談したまでのことであつて、その使途が自己のためであるか、他人のためであるかは、収賄罪の成否に消長を来たすものではなく、まして、これを被告人が課長である畜産課関係の食糧費等に散じたことは、一面被告人自身のために費消したことにもなる筋合であるから、この点からみても、被告人がこれを現実に享受または収得する意思がなかつたものとはいわれない。さらに所論引用の桜井信雄の調書中の原判示金員は寄附金又は研究費として畜産課に贈つた旨の供述は、供与当時における相手方に対する儀礼的ないし体裁上の言辞に過ぎないものとみるべきであつて、その真意は被告人に対する賄賂の供与であつたことは証拠上明白であり、この点についても原判決の認定に誤なきものであるから、この事実に対して、所論第三者へ供賄の法条を適用せずして単純収賄の法条を適用した原判決に過誤はない。かくして原判決には所論のごとき事実誤認及び法令適用についての過誤等の違法は毫も存しないのであるから所論はいずれも採用するに由なく、論旨はすべて理由なきものである。

弁護人M控訴趣意第二点並びに、同E控訴趣意第二点から第四点まで及び第六点(原判示第二の事実関係)に対する判断。

被告人に対する原判示第二の業務上横領の事実も、原判決挙示の対応証拠によつて優に認めることができ、原判決に事実誤認の廉はない。すなわち、原判示民間の委託による種畜の購入のあつ旋が、所論のごとく、被告人が全く個人的立場において受託したものであつて、公務に関係がないとは認めがたく、群馬県庁処務細則(分課及び事務分掌)の畜産課第一号に掲げられた「家畜、家きんの改良増殖に関すること」の一環として県内民間の委託による種畜の購入あつ旋業務を原判示のごとく被告人の掌理する課においてその事務として取扱つていたことは証拠上明白であるから、これが被告人の職務行為であることはもちろんであつて、そのあつ旋のため予め委託主から委託種畜の購入代金等の概算資金を預り保管するにおいては、これを業務上占有と目すべきは当然である。

二、つぎに本件種畜購入あつ旋の委託者すなわち原判示横領の被害者として、原判決は千明牧場主千明康等である旨判示し、その明確を欠くうらみはあるが、右は千明康及び群馬県利根郡片品村を指すものであることは証拠上明らかであつて、原判決が審理不尽の結果これが確定をしなかつたものではない。けだし横領罪を断ずるに当つては、その財物が犯人以外の者に属する事実を明示すれば足り、必ずしも被害者の氏名を精密に示す要なきものであつて、原判決の説示するところもこの趣旨に帰着するものであるから、原判示は横領罪の摘示として欠くるところはない。すなわち本件においては、原判決が被害者について、右片品村を主とした原審検察官の起訴状の記載と所見を異にし、千明康を主たる被害者として判示したものであつて、それが公訴事実の同一性を害するものではなく、かつ被告人の防禦権に実質的不利益をもたらすものではないからこの点について非難せらるべきではない。

(中野 尾後貫 堀真)

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